僕だけがいない街 11
<一つ 昔の話をしようか>
<僕が 小学6年生だったころの話だ>
<あるとき クラスメートの女子が➡
ハムスターが 7~8匹入った箱を 僕のところに持ってきた>
<不注意から繁殖させてしまい➡
それ以上 飼うことができなくなって➡
途方に暮れていた>
<引き取った僕は うちに帰ると➡
果実酒用の大瓶に水を入れて ハムスターを 全て中に落とした>
<3時間後 夕食を終えて 部屋に戻った僕は➡
その光景に 目を奪われた>
<そこには 力尽きて浮いている 他のハムスターの上を渡り歩く➡
1匹のハムスターがいた>
<正直 しびれた>
<僕は そいつをスパイスと名付け 飼育することにした>
<その光景を見たとき➡
僕は 『蜘蛛の糸』という 短編小説を思い出した>
<知っているかな? 悪行の限りを尽くして➡
地獄に落とされた カンダタという男に➡
1匹の蜘蛛を助けたという 生前 唯一の善行によって➡
釈迦が極楽から 蜘蛛の糸を垂らしてやった>
<カンダタは 極楽を目指して 登り始めるが➡
他の亡者たちが 後を追ってくると 次々と蹴落とした>
<すると…>
<糸は切れ カンダタは 再び 地獄へと落ちていった>
<こんな話 信じてもらえるとは 思わないんだけど➡
あえて言うよ>
<いや 君なら 分かってくれるかもしれない>
<スパイスと出会って以来➡
僕には 蜘蛛の糸が 見えるようになった>
<それが見えた人間を 殺してきた>
<だけど あるとき 一人の少年が 僕の計画を阻止した>
<そして その少年の頭の上にも 蜘蛛の糸が現れた>