なまくら刀 塙凹内名刀之巻(1917年)

日本におけるアニメーション映画の先駆けと言われるのは、1917年1月、5月、6月と続けて公開された、下川凹天の『凸坊新畫帖 芋助猪狩の巻』、北山清太郎の『猿蟹合戦』、幸内純一の『なまくら刀』(別名:塙凹内名刀之巻=はなわへこないめいとうのまき)の三作品である。 2008年に映像文化史家の松本夏樹氏の協力を得て、同氏が所蔵する可燃性染色ポジ(黄)からデジタル復元を実施した『なまくら刀』の2分間のバージョンが、この中で現存する唯一の作品であった。ところが、以下で記述する調査により、完全版に近い形を留めていると思われた同バージョンは全体の後半部分が中心で(「発掘された映画たち2008」で公開)、今回(2014年)発掘された可燃性染色ポジ(緑)はその前半部分を中心に構成されていることがわかった。 当館において映画復元を動機づける最も大きな要因は、映画史的に重要かつ未所蔵の作品が発掘された場合である。『なまくら刀』の可燃性染色ポジ(緑)は、2008年度に寄贈手続きが完了した「南湖院コレクション」の中に含まれており、描線が壺を刻々と描いてゆく線画アニメーションの断片と、男性が自転車の曲乗りをする実写の断片(両作品とも映画題名不詳)とのあいだに繋ぎ込まれていた。前回復元版の欠落を埋める部分が、所蔵作品の中に埋もれていたのである。 『なまくら刀』[デジタル復元・最長版]を作成するにあたり最初の課題となったのは、前回復元版(黄)と今回発掘した可燃性染色ポジ(緑)全体の中から、復元の元素材として、どちらのコマをどれだけ使用するかという点であった。両素材にはお互いコマ単位で補完し合っている箇所があり、仮に「完全な」最長版を作成しようとすれば、ほんの短い1カット内で緑・黄・緑・黄…という具合に画が入れ替わり、観客の見た目にショックを与えてしまう恐れがあった。しかし幸いなことに、両素材には数コマ単位の欠落が見られるだけで、限りなく完全版に近い復元が可能であると判断したため、今回は新規に発掘した全3,180コマを使用して、そこに欠落している部分を前回復元版810コマで埋め合わせる方針を固めた。すなわち、①「なまくら刀」というメインタイトル、②時計回りに90度回転している「ここで一番試斬り」というインタータイトル、そして、③按摩の背後から刀で切りかかった侍(塙凹内)が反撃にあう場面からエンドまで、この計三カ所について前回復元版を使用することになった。 次の課題は、そもそも黄と緑に染色されていて色味が異なるう
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